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植物に親しもう①ー植物の役割、衣


コンクリートの割れ目など、過酷な環境で健気に育つ草花を見て、力づけられた事のある人は多いのではないでしょうか。普段意識する機会は少ないかもしれませんが、実は常識をくつがえすような発見が多い植物の世界。植物に親しむことで、毎日の暮らしに新たな豊かさと、楽しみが広がります。
今回は植物の驚きの役割と、「衣」に使われる植物についてみていきましょう。

 

母なる植物ー生きとし生けるものの命の源

地球を「生命の惑星」へ変えた植物


40億年前地球で最初に誕生した生命は、植物です。植物は、大気を育み、生命あふれる豊かな地球を創りました。4億5000万年前、海から上陸した最初の生命も、植物でした。その後昆虫や両生類に続き、人類の祖先が誕生したのはわずか500万年前のことです。

陸上生物の総重量(重さ)470ギガトンのうち、人間など動物は、微生物を合わせてもたった4.5%です。残りすべてを植物が占め、地球はほぼ植物で覆い尽くされています。

植物はその長い歴史の中で、生命を育める環境を創り、植物から、人を含むあらゆる命へ多様に進化したのです。

暮らしは植物の恩恵に満ちている

植物は食物連鎖の土台です。私たちの食べ物はすべて、植物か、植物から栄養をとって成長した生き物です。

植物だけが唯一、太陽のエネルギーを養分に変換でき(光合成)、その栄養を、昆虫や鳥、人を含むすべての動物に、無償で分け与えています。

食べ物のほか、薬や化粧品(薬草、ハーブ)、住居や家具(杉、ひのき)、嗜好品(コーヒー、酒、タバコ)、衣服(綿、麻)、染料(アイ、草木)、紙(コウゾ、木材)、燃料、園芸植物、移動手段のタイヤ(ゴム)など、私たちの暮らしは、植物から多大な恩恵を受けて成り立っています。

植物との共存共栄の道へ舵をきろう

生物種はここ100年、絶滅の勢いを加速させています。100年前に絶滅していたのは年1種でしたが、1975年以降、年4万種が絶滅していると言われます。植物種はまだ未知なものが多く、治療や生活に有益な植物が、その有用性を見出される前に絶滅しているかもしれないのです。

自然の威力は偉大です。土砂災害など自然災害の大規模化は、壊されたバランスを取り戻す自然の力が働いていることも要因の1つとして考えられています。自然の力に対抗するには莫大な労力とエネルギーを要しますが、逆に、自然の力を生かし人間と自然が力を合わせるように働けば、より短期間で自然との共存共栄の道を実現させることができるはずです。

命は互いにつながり、生かし合っています。生物種の多様性、命を育む植物なくして、動物である人の命も決して守ることはできません。

まずは植物に親しもう

現在役立てられている植物は、先人たちがよく観察し親しむ中で、その活用方法を見出して来ました。私たちも、食べられる山野草の恵みを頂いたり、病気やケガで必要な時に身近にある草木に助けてもらう術を身につければ、暮らしがより安心で豊かになるでしょう。また大事な植物が消えてしまわないよう守り、持続可能に利用する知恵も得られるはず。今回はテーマに沿って、衣服に使われる植物を取り上げてみましょう。

衣になる植物ー天然繊維

原料は、タイマ(ヘンプ)、カラムシ(チョマ)、アマなどで、茎や葉の筋から繊維を採ります。
1万年前の縄文時代から栽培され、衣服の中心でした。丈夫で、吸湿性や、通気性が良いため、高温多湿の日本に最適です。

主な麻織物は、小千谷ちぢみ、越後上布、能登上布、近江上布、八重山上布など。

※タイマ(ヘンプ)は、肥料や農薬をあまり必要とせず日本全国で栽培でき、茎・葉・実・根まで余すところなく多用途に活用されました。抗菌作用があり神聖な植物として神事や伝統行事に欠かせず、戦前まで日本の暮らしを支える重要作物でした。日本のタイマ(ヘンプ)はTHC含有量(ハイになる成分)の少ないものでしたが戦後は大麻取締法で栽培が制限されました。

綿

原料は綿の実で、種に付く綿毛から繊維を採ります。
江戸時代には「五穀をさしおいて」栽培され、衣服も麻から綿中心へ移行しました。肌触りが良く、丈夫で、保温性、吸水性があり、染色しやすく、日本の気候に合いました。

主な綿織物は、会津木綿、丹波木綿、弓浜絣、伊予絣、久留米絣、琉球絣など。

※現在アジアの綿生産地では、膨大な農薬使用や劣悪な労働環境などが問題になっています。オーガニックなど環境や人権を守るエシカルファッションの選択も社会を変える力になります。

原料は、桑を食べて育ったカイコが、さなぎの時に作るマユです。
弥生時代に生産が始まり、明治から昭和初期、生糸は日本の重要な輸出品の一つでした。上品で光沢があり、繊維が細くて強いので、厚手にも薄手にも布を織ることができ、染色も容易です。古くから高級品として扱われました。

主な絹織物は、仙台平、白鷹御召、塩沢御召、結城紬、西陣織、丹後縮緬、博多織、黄八丈、久米島紬、大島紬など。

人工的につくられる繊維ー主に石油由来

人工的につくられる化学繊維にはいくつか分類がありますが、その大部分を占めるのが、ポリエステル、ナイロン、アクリルなど、主に石油から作りだされる合成繊維です。安価でしわになりにくい等の性質があり、1940年代から普及が進み、80年間で生産量はトップになりました。

石油が原料の合成繊維は、ファイバー状(繊維状)のプラスチックで、自然分解されません。今ではマイクロプラスチック最大の排出源(年間52.5万トン)とされています。家庭での洗濯(特に劣化したフリース)で大量に排出され、極小のため下水処理場のろ過を通り抜けてしまい、川や海に流れ込み半永久的に蓄積しています。最近、魚や、人体からもマイクロプラスチックが検出され影響への懸念が広がっています。

編集後記

実は観葉植物を育てるのも苦手で、植物とはこれまで縁遠かったのですが、調べていくうち植物の偉大さに感謝でいっぱいになりました。植物が生きやすい環境は、同時に人を含め、植物から恩恵を受けるあらゆる命も生きやすい。暮らしの中の選択が、そんなパーマカルチャーが目指す方向と合致するよう、まずは服の素材やメーカーを見極める目からも養っていきたいですね。

参考

・「暮らしを支える植物の事典―衣食住・医薬からバイオまで」A.レウィントン(八坂書房)
・「調べて学ぶ 日本の衣食住 日本人は何を着てきたか」(大日本図書)
・「日本人の衣服」長崎巌 監修 遠藤喜代子 文(岩崎書店)
・未来の暮らし研究所 四井家オンラインサロン

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