SOWERS Library | Modern Permaculture mag.

house

江戸時代から学ぼう③―江戸の暮らし、住

持続可能な社会にとって平和は前提条件ですが、江戸時代は250年間も平和が続き「徳川の平和 Pax Tokugawa」と海外でも賞賛され研究されています。今年日本は戦後78年を迎えますが、100年、200年と平和が続くことを目指したいものですね。さて、そんな太平の世を背景に、当時世界一の人口を抱えるまでに繫栄していた百万都市、江戸。その繁栄を支えた人々の暮らしとは、どのようなものだったのでしょうか。今回は「江戸の暮らし、住」について見ていきましょう。

江戸の暮らしは無駄がない

江戸庶民の平均的な居住スペースは?


江戸庶民は長屋と呼ばれる集合住宅の借家に住んでいました。平均的な間取りは、入口の土間と竈(かまど)の置かれた台所を別にすると、6畳ひと間ほどでした。5~10年周期に大火がおこる江戸では、大きな家具より葛籠(つづら)など、すぐ運び出せる収納が好まれました。着物は洋服と違い数量を必要とせず【参照:江戸時代から学ぼう①―衣の循環 】、布団は部屋の隅に重ねてL字型の枕屏風(まくらびょうぶ)で目隠しすれば、押入れがなくとも片付きました。6畳ひと間を寝室、居室、ダイニングとして多機能に使うことで、狭いようでも不足なく、空間が有効に使われました。

暮らしの循環を支えた行商人


江戸の町には多種多様な行商人がいました。採りたて野菜や、新鮮な魚介、味噌やしょう油など調味料、豆腐、納豆、漬物などの加工品まで行商人から必要な分だけ買うことができ、包装などのゴミはほとんど出ません。食材の不要な部分は、ためておけば、農家や業者が肥料として回収にやってきます。他にも、針、箒(ほうき)、炭、草履(ぞうり)などの生活用品や、花、薬、勝負附(相撲の結果)、笛など120種を超える行商人が一日中町を売り歩いていました。女性には草紙本を扱う貸本屋や、古着売りなどが人気でした。

何度でも修繕し、使えなくなったら買い取ってもらえる!


行商人の中で、特に注目したいのは修繕屋さんです。鍋や釜の破損は鋳鉄師、茶碗や皿は瀬戸物焼接ぎ(白玉粉で焼接ぐ)、下駄の歯を交換する下駄歯入れや、算盤直し、たらいのタガ直しなど、生活に必要な道具はみな、修繕してくれます。行商人は、持ち歩いている新品を売った方が稼ぎになるのですが、それより手仕事で生み出された品をより丈夫に直す職人気質や、自然の恵みを使い切る「もったいない」精神が当たり前のように根付いていたのです。いよいよ修理不能になった鍋や釜は、鉄くず集め業者が回収し、鍛冶屋が煮溶かし新しい製品へ生まれ変わりました。紙くずは、紙くず買いに引き取られ、鼻紙やトイレの紙に使われる再生紙になり、古着屋、ろうそくの流れ買い、古傘買いもいました。竈の灰は、灰買いの行商人を通して、肥料の他、陶芸、染物、酒造などに使用され、ゴミが出ない循環の社会でした。

排泄物は、高級肥料に!


都市の排泄物は、すべて郊外の農村地に運び込まれ、落ち葉と混ぜたり、そのまま発酵させたりして良質の肥料、下肥(しもごえ)に加工されました。肥料の質は、収穫量、農家の収入に大きく影響するので、農家は都会の排泄物を欲しがる一方、都会では、し尿の処理ができるだけでなく、代金としてお金や野菜がもらえるので、し尿買いを歓迎します。長屋の大家さんは、地主からの給金より下肥業者からの収入の方が大きかったといいます。大勢の武士が暮らす武家屋敷では1カ所で大量に仕入れることができたため人気が高く、価格高騰が繰り返され幕府の裁定が下される事態にもなりました。江戸を訪れた外国人の記録に、江戸の町がいかに美しく清潔に保たれているかが書かれており、当時繁栄していた海外のどの都市より衛生環境が保たれていたそうです。排泄物の循環は、清潔な都市環境と、近郊での安定的な食料生産を実現させる要でした。

循環する家

地産地消、持続可能な家づくり


日本の伝統的な民家も、身近な自然の素材を使い、頑丈に造られていました。生活道具同様、修繕しながら長く使う前提で建てられ、傷んだ所だけ新しく差し替えたり、修理や移築、再生が何度でもできました。完全に利用できなくなると、燃料にして最後は土に還ります。こうして長く住み続けている間に育つ木で、また新しく家が建てられ、持続可能な循環する家がつくられていました。

自然を活かして快適に

 


土壁は蓄熱・調湿作用があり、真夏でも日中涼しく、夜は熱を放出し、室内温度を一定に保ってくれます。また湿度が高いときに湿気を吸い、逆に湿度が低いときには水分を放出してくれます。深い軒(のき)は、建物に雨がかかるのを防ぎ、耐久性を高めると同時に、高い位置にある夏の太陽の日差しを遮り、低い位置にある冬の太陽の光を室内に取り込むことができ、自然の仕組みを利用して快適に過ごすことができました。

伝統構法は日本独自のスゴイ技術


実は、世界最古の木造建築、ランキング上位すべてを、日本の建物が独占しています。世界最古の木造建築、法隆寺は1300年以上も前に建てられ、地震や台風の多い日本で、すぐれた建築技術を実証しています。「伝統構法」は1本1本異なる木を活かす木組みを基本に、外からの力を構造全体で揺れながら逃がす柔構造、いわば「柔よく剛を制す」原理に基づいています。日本の気候風土の中で長い年月磨き上げられた先人たちの知恵の結晶「伝統構法」は、日本建築の前提として宮大工を中心に代々継承され、戦前の西洋建築が日本に入ってくる前の社寺、民家などがこの構法でつくられてきました。

効率は良いが寿命が短い在来工法


現在日本の住宅寿命は30年と言われています。現代の木造住宅は「在来工法」と呼ばれ、固める構造原理で外部からのエネルギーに抵抗します。「伝統構法」に比べ作業効率は良いのですが、耐震性や耐久性は低くなり、安い外国産木材は日本の気候に合わずに、割れたり曲がりやすくなります。また、使われる素材のほとんどは化学物質を含むため寿命が尽きれば環境を汚染します。修理や再生も難しく、表面はきれいに直せても、最も重要な構造部の再生は極めて困難なのです。
歴史ある「伝統構法」の方が、日本の気候に合う優れたものでしたが、現在の建築基準法によって建設することが困難になり、技術を継承する人も、必要な道具の生産者も年々減少し消滅の危機に瀕しています。

編集後記

明治以降の近代化、戦後の急速な西洋化で、暮らしはとても便利になりましたが、循環型の暮らしは失われ、伝統の技術や文化など先人たちから代々継承されてきた遺産が、今まさに消え去ろうとしています。法隆寺五重塔の免震技術が、東京スカイツリーに活かされているように、過去の叡智に学び、現代の技術を活かすことができれば、きっと新しい持続可能な未来への道が開けると思います。私もそんな状況を知ってから、おじいちゃん、おばあちゃん達の昔話を聞きたいと強く思うようになりました。循環する暮らしの知恵や各地に伝わる文化、一つでも多くみなで引継いでいけたら良いですね!

参考

・「図説世界を驚かせた頭のいい江戸のエコ生活」菅野俊輔(青春新書)
・「調べて学ぶ 日本の衣食住 日本人はどう住んできたか」(大日本図書)
・「江戸のくらしから学ぶ『もったいない』」1-3巻 秋山浩子 文/伊藤まさあき 絵(汐文社)
・「日本人を知る本 5 日本人の住まい」(岩崎書店)

コメント

この記事へのコメントはありません。

RELATED

PAGE TOP