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江戸時代から学ぼう①―衣の循環

まだ着られるのに流行遅れなどの理由から、ほとんど着ていない洋服を抱え悩ましく思っている人も多いのではないでしょうか。私もその一人ですが、パーマカルチャーの視点に立つと、どんなことが見えるでしょう。

日本には、かつて素晴らしい循環型社会のモデルがありました。今回は、そんな過去の叡智から探ってみたいと思います。

江戸時代―循環する暮らしの知恵の宝箱

便利さ偏重の不利益

わずか140年前、エジソンが日本の良質な竹で完成させた白熱電球が、初めて発売されました。短期間で私たちの暮らしは、飛躍的に便利・快適になりましたが、大きな代償も明らかになっています。大量生産・大量消費による環境破壊、ゴミ処理問題、温暖化や乱開発等による災害の大規模化、そして命を守る生命線、衣食住エネルギーの多くを海外に依存し、供給量や価格の不安を常に抱えるようになってしまいました。

日本の伝統的な暮らしは、パーマカルチャーの起源

パーマカルチャーが提唱される60年以上前、アメリカの農学者キングが『東アジア四千年の永続農業(パーマネント・アグリカルチャー)』という本を出版しました。近代農業で土の劣化が深刻になり解決策を求めて、東アジア(日本、中国、朝鮮)を訪れたキングが、循環型有機農業についてまとめた内容で、欧米では100年以上前から当時の日本の農法が手本として研究されていたのです。伝統的な日本の暮らしはパーマカルチャーの起源でもあるのです。

江戸時代―自然と共存する豊かな暮らし

江戸時代の日本人は、世界一識字率が高かったと言われ、平和な時代背景の中で茶道、華道、歌舞伎などの文化が庶民に広く親しまれました。また農だけでなく、自然と共存する暮らし方について、豊富な知識と経験の蓄積があり、約260年もの間、ほぼ完全な循環型社会が成り立っていたのです。

江戸の暮らしを学ぶことで、手間ひま、愛情をかけた暮らしの中にある知恵や価値に思いを寄せ、温故知新、新しい未来へのヒントを見つけることができるのではないでしょうか。今後も、いろいろな視点で江戸の暮らしを取り上げてみたいと思いますが、今回は「衣の循環」について探ってみます。

着物 ―人と自然の中で循環する衣

端切れ(捨てる生地)がまったくなく、何度もリメイクする着物

洋服は曲線が多く、布を裁断する時に必ず端切れが出て、活用しにくいため捨てられてしまいます。一方、着物は直線裁ちで、裁断する時に無駄になる布がまったく出ません。

また、直線縫いで、糸を解いて再度一枚の生地に戻すことができるため、デザインや体形に合わせて、仕立て直し(リメイク)も容易でした。傷んだり色あせた部分は、帯などで隠れる部分に換えたりして、何度も新しく生まれ変わらせることができました。

体形や年齢、気温や好みの変化にも抜群の対応力

着物は、多少体形が変わっても、そのまま美しく着つけられ、年齢に応じて染め直すことができます。そして、着物は、基本の構造が同じで重ね着が容易なため、寒暖に合わせた調節がしやすく、また多様な着付け方次第で自由に雰囲気を変えられるので、好みや個性を活かしたファッションも楽しめました。

世代を超えて受け継がれる着物

年齢や体形、流行の変化で着られなくなる洋服に比べ、着物は、はるかに使い回しがききました。そのため、親から子、子から孫へと世代を超え、家族の歴史や思い出とともに引き継ぎ、身にまとうことができます。また、古着としての利用価値が高く、江戸時代の都市には、大規模な古着市があるのが普通でした。

ゆかたの一生 ―循環する衣

長く着る工夫

新しいゆかたを作るときには、生地を買い、各家でゆかたに仕立てました。子どものいる家では、大きめに作って肩や腰の部分の布を縫い上げておき、成長につれ糸を解き、生地を伸ばします。さらに成長して着られなくなると、下の子のお下がりとなりました。

外で着られなくなってからの工夫

  1. 寝巻:着古したゆかたは布が柔らかくなり、ちょうど良い寝巻になります。
  2. おむつ:布地がさらに弱って柔らかくなると、おむつとして使われました。赤ちゃんの肌には使い古した木綿がちょうどよいため、赤ん坊が生まれると、近所の家や親戚から、古いゆかたを解いて贈られました。
  3. 雑巾:おむつとして使い果たすと、雑巾になります。古いゆかたの雑巾は水を良く吸って使いやすく、布としては最後のつとめを果たしました。
  4. 燃料:ボロボロになり、雑巾としても使えなくなると、かまどや風呂釜の燃料として使われます。
  5. 畑の肥料: 燃えた後の灰は、畑へ使われ、土に戻りました。

土に還り循環する「持続可能な衣」

現在日本で販売されている衣料品は、98%が輸入品で、毎日1,300トンが捨てられています。着物は、材料が木綿(ワタ)や絹(クワ)、麻(タイマ)など、すべて土から生み出された素材で、無駄なくリメイクしながら長く着続け、最終的には土に戻り新たな命へと循環していました。

着物は「持続可能な衣(サステナブル・ファッション)」そのものだったのです。

編集後記

日本の民族衣装なのに馴染みのない着物でしたが、パーマカルチャー的にも素晴らしい循環の知恵が詰まっている事に気づかされ、感動しました。祖母がよく着ていた事も思い出し、普段着としての着物は、日本の気候に合い、着心地が良かったのだろうと思います。難しいことは抜きにして着物を楽しんでみたいなと、少し身近に感じました。

洋服を選ぶときにも、あまり流行を追わず、長く着られる着心地の良さを基準に選び、大事に着た後も最大限活用するなどの視点を取り入れていけたらと思いました。

参考文献

・『パーマカルチャー菜園入門』設楽清和 (家の光協会)
・『大江戸えころじー事情』石川英輔 (講談社)
・『日本人の衣服』長崎巌/監修 遠藤喜代子/文 (岩崎書店)

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