みなさんのなかにはパーマカルチャーの循環を生み出すデザイン手法や人と地球、全体を考える生き方に惹かれつつも、植物を育てられる場所がなかったり、なかなか時間がとれないというかたもいるかもしれません。
発酵食品は、そんな人でも取り入れやすいパーマカルチャーの実践方法のひとつです。植物を育てるための土づくりには微生物の働きについて知ることがとても重要ですが、それは発酵食品を育てるときにも同様です。微生物とうまく協働できると、無駄なエネルギーを使うことなく自然の働きだけで、おいしく健康的な食べ物を作ることができます。
今回はそんな発酵食品を取り入れるメリットをパーマカルチャーのキーワードである多様性という観点からご紹介します。
発酵食品と微生物が育む多様性
発酵とは
発酵とは、食べ物に含まれるでんぷんなどの有機物を乳酸菌、麹菌、酵母などの微生物が分解し、旨味成分となるアミノ酸やアルコールなどの人に有益な物質に作り変えることを指します。同じ微生物の働きでも、人に有害な物質に変化することを腐敗と呼びます。
発酵食品は、発酵する微生物が住みやすい環境を用意し育て、彼らの働きによってできたものを頂く、まさに自然との共同作業です。
食卓の多様性
発酵食品は世界中の食卓を、多様で豊かにしてくれています。日本人の食卓に欠かせない、醤油・味噌・酒・みりん・納豆はもちろん、ヨーグルト、チーズ、アンチョビ、ピクルスやナンプラーなど、いまでは日本でもメジャーになっている食べ物も世界各国で独自に発展してきた発酵食品です。
伝統的な食文化のなかに発酵食品が必ずと言っていいほど存在するのは、発酵食品がおいしいだけでなく、保存性にも優れていたからです。冷蔵庫がない時代、魚や乳製品、野菜など腐りやすい食べ物を保存する方法として発酵という技術が発展し、現代に引き継がれています。
発酵という働きがなければ、私たちの食文化にここまでの複雑性や多様性は生まれていなかったかもしれません。世界の発酵食品のレシピを調べて、普段の料理に加えれば単調になりがちだった食卓も、おいしく楽しく彩ってくれる存在になります。
おなかの多様性
現代では発酵食品は健康食材としても注目されています。
近年、多種多様な微生物が密集している腸内をよい状態に保つ「腸活」が注目されいます。腸活は食生活だけでなく、運動習慣やストレスなど様々な要因によって変化するので発酵食品だけで解決するものではありませんが、発酵食品に含まれる善玉菌を身体に取り入れることで、腸内の健康的なバランスを保つことにつながります。
彼らは消化を助けてくれるだけでなく、ビタミンを作ったり、毒素を分解することで、免疫機能を向上させたり、中性脂肪や血中コレステロール値を低下させるといった働きをしていることが近年の研究で分かってきています。
文化の多様性
パーマカルチャー視点でみると、発酵食品にはもう一つの役割があります。それが文化の多様性を育むことです。
たとえば、多くの発酵食品は発酵が進むとその一部を取り分けて、おすそ分けすることができます。だんだん増える植物を株分けするように、1人分から家族分、そしてそれ以上ができるようになり、近所の人や友人にシェアできる貴重な資源になります。
もとは同じものでも育てる人や家によって、できるものには多様性が生まれるので、仮に自分が失敗してしまってもコミュニティのどこかにバックアップがある環境が生まれます。
また、発酵食品をシェアする文化があれば、栄養たっぷりの旬のものを共同購入して食べきれない分は発酵させ、保存することができます。旬のものは比較的価格も安く、栄養価も高いので、家計にも身体にもヘルシーで、農産物の廃棄も少なくすることができるとても効果的な手段です。
このように発酵食品を通じて文化が生まれ多様に進化することで、健康的な食と地域のつながりが生まれます。
発酵食品を食事に取り入れる際のポイント
生きた発酵食品を選ぶ
発酵食品を食事に取り入れるとき、健康のことも考えるのであれば微生物が生きた状態で取り入れることが大切です。
しかし、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで手に入る食材は衛生管理が徹底されており、私たちの身体に害をもたらす菌や微生物を排除する際に、よい影響を与えてくれる微生物も一緒に殺してしまいます。ものによっては、味だけが再現された発酵していない商品もあります。
生きた発酵食品を手に入れるのであれば、購入するより手作りがおすすめです。自分で作れば、材料もこだわりのものを選ぶことができますし、出来たてをそのまま頂くことができるので微生物はもちろん生きたまま取り入れることができます。
まずは簡単に作れる塩麹などから自宅で発酵を始めてみませんか?購入する場合には、無濾過のものや過剰な殺菌処理がされていない商品を探してみてください。
毎日少量ずつ取り入れる
腸内環境の改善のためには毎日少量ずつ、善玉菌を取り入れることが大事です。善玉菌でも多量に摂取すると、腸内の微生物のバランスが崩れ不調の原因になるので、植物に肥料をあげるときと同じように、その環境にあった質や量を見極める必要があります。まずはスプーン一杯やコップ一杯など、小さくはじめてみてください。
自宅で作りやすい発酵食品
私が初めて作った発酵食品は塩麹でした。スーパーで買った麹と水と塩を混ぜるだけで、本当に簡単にできました。毎日混ぜるので自分が育てているという愛着がわき、発酵食品愛が高まりました。
下記に、レシピがネットで見つけやすい発酵食品をあげてみました。このほかにも様々な種類の発酵食品がありますのでご自身の好奇心が向くものから、小さく始めてみてください。
麹菌:塩麹
酵母菌:天然酵母のパン、発酵ピクルス
乳酸菌:ヨーグルト、キムチ
酢酸菌:コンブチャ
編集後記
今回はパーマカルチャーの包括的な視点から発酵食品をとらえなおすことで、「おいしい」「健康的」というだけでなく、文化の醸成や生態系のバランス、多様性があることの重要性にまで気づかされました。
日本でパーマカルチャーと聞くと、土地を持っている人や植物が大好きな人のためのものというイメージがあるように感じますが、海外ではソーシャルプロジェクトとしてパーマカルチャーもあれば、料理人のパーマカルチャーもあります。そんな中でも私たち日本人の食卓に欠かせない発酵食品は、微生物との協働がカギとなる大変面白い領域で、循環する暮らしを始める第一歩としても最適なのではないでしょうか。
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